世代を追うごとに共通の規格に集まっていくものだと思っているのだが、通信の世界は
なかなかそうはいかないようだ。周波数の割り当てや帯域幅というものが有る以上
話はそう簡単ではない。
周波数帯域というのは有る意味土地に近いものがある。
与えられた土地で何を行うか、という考え方に似ている。
規格争いは携帯電話産業以外にも色んな分野でされてきた。
映像業界に強い日本発のもので言えばVHS対βや、Blu-ray対DVDが印象深い。
(Blu-rayは英語圏の商標登録に配慮してBlue-rayではなくBlu-rayが正式名称)
一年ぐらい前までは未来の技術はLTEで間違いないと私は思っていた。
それがHSPA周りの開発は思ったより進化していた。
HSPA+で21Mbps、DC-HSPA+では42Mbpsになる、なかなか捨てたもんじゃない。
と言っても実際のところ規格としては煮詰まっており、九龍城のようにビルの上に
更に別のビルを継ぎ足して建てるような状況になってきています。
HSPA→HSPA+化は根本的に速くなると言うよりは受信した電波の判別する条件を厳しくして
その分高速化を行うというものです。ですから受信状態が良くないと高速に通信が出来ない
どころか、基地局をHSPA→HSPA+化した途端に今まで問題なく使えていたエリアが
全く使えないエリアになってしまうことがある。
それは基地局の設計段階でどれだけ設置条件を厳しく取っているかにかかっている。
例えばドコモならIMT基地局をきっちりと設計して能力的にも電波品質的にも余裕を持った
配置しているが、ソフトバンクは圏外を無くすことを何よりも最優先にした配置を行っている。
よって電波さえ届いて通信出来れば多少電波品質は劣っていてもOKにしてしまう。
自動的に余裕の無いネットワークとなる。
なのでソフトバンクは2GHz帯でのHSPA+化は避けることにした。
害のあるIMT基地局や中継局を引っこ抜いてはIMT基地局に置き換えていくような
気の遠くなるような事は世代交代レースの最中にやってられない。
ドコモとauだけが相手ならゆったりした動きだが、イーモバイルが後ろから突っついて
くるものだからソフトバンク的には相当焦りがあるはずだ。
一方HSPA+→DC-HSPA+化はHSPA→HSPA+のような電波の質に対する厳しさは無い。
但し他の基地局か同一基地局の他のセルを含む二つ以上のセルと通信可能常態でなければ
DC化の効果は出ない。他のセルと重ねれば重ねるほど相手基地局やセルの立場から見れば
ノイズ成分が増えることとなりHSPA+の効率は落ち、離せば離すほどDCの効果は出なくなる。
背反するもの同士で最高のバランスになるところを見つけなければならない。
しかも複雑な地形や建物環境を含んだ面単位で。
なのでDC-HSPA+化は実際のエリア展開が始まると相当なトラブルが予想される。
今も続いているソフトバンクのHSDPA化が難航しているのは孫社長の46000基地局発言に
端を発する無計画な基地局乱立が原因であり、その影響をモロに受けている形になる。
一方イーモバイルは平成21年7月11日現在で8447局しか基地局を置いていない。しかも一番弱小なのに基地局設置のペースは余り急いでいない。
これでは更に3強に置いてけぼりを食らうのでまずいのではないか?
それは違う。
イーモバイルは資金力の問題も有るが、わざとゆっくりしたペースで基地局を設置している。
かつてのソフトバンクの乱立による失敗例を見ていることも関係有るかもしれないが、
折角1.7GHzの完全な白紙の状態の帯域に基地局を設置できるわけだからきっちりと
HSPA+化までを見極めた基地局設営をしていたわけだ。その為にはソフトバンクが
中継局を乱立したような無様なことは出来ない。先のwikiのページではイーモバイルの中継局数は
平成21年7月11日現在で226しかない。電波の質を優先している為、本当に必要な場合しか
IMT基地局・中継局を設けないのだ。
だからイーモバイルは21Mbpsサービスを全く動けない大手を尻目に先行してスタートできた。
初めから21Mbpsがターゲットだったので基地局のソフトを入れ替え、ちょっとした調整のみで
開始できたわけだ。始めにコストをかけてきた分後でしっかりと甘い果実にありつけている。
また基地局を背伸びして増やさなかったので全数入れ替えもしやすい。
収益率の高い場所に限ってサービスをしているのでショップ関係にかかる費用も抑えられ、
利益を確保しやすい。基地局に対する動きはソフトバンクとは正反対の行動を取ることで
高速で良質のネットワークを得る結果になった。
一方ソフトバンクはイーモバイルとは反対に無計画に広エリアだけを優先してIMT基地局や
中継局を乱立させた。完全な電波カオス状態。
そこでソフトバンクが考えたのは一から設計できる1.5GHz帯でクリーンな設計をすること。
ここにHSPA+、DC-HSPA+のエリアを構築する。
イーモバイルの二周遅れでイーモバイルと同じ事を始めるのだ。
さすがのソフトバンクもここには妙な基地局を乱立したりはしないだろう。
過去の2GHz帯のエリア構築を自ら否定することになる。
同時にイーモバイルの後塵を拝することも。
1.5GHz帯がクリーンだから1.5GHz帯にHSPA+を持ってくるわけだが世界的な3Gバンドで
海外各国とのローミングを考えると800MHz帯か2GHz帯でHSPA+をサービスしていなければ
ソフトバンクの販売した端末以外では誰もそのネットワークは使うことが出来ない。
ソフトバンクがそれを行っている間、ドコモとKDDIはLTEのエリア構築を一から行う。
先にも書いたようにCDMAの持つ長所と短所のトレードオフに苦しむDC-HSPA+を
ソフトバンクが一所懸命に作っている間に二強はもっと先に行ってしまう。
イーモバイルのHSPA+とUQのWiMAXの二つはどちらも一からエリアを作ったもので
純粋な比較対照といえる。
この二つはどちらも平均的な転送速度を見ると3~4Mbpsの間ぐらいという意見で収束しそうだ。
イーモバイルはHSPA+ではアクセスが安定しない問題が一部で取り上げられ、HSPA+を見込んで
作ったエリアですら問題が多い。一方UQは単純に2.5GHz帯の罠としか言えない。
水の固有振動数は2.45GHzであり電子レンジはこの周波数を食品に発射して水分の分子を
揺らして食品を暖める。2.5GHzはこの周波数に非常に近く、ビルの鉄骨だけでなく水分の
多い物にも他の周波数に比べて特に電波をさえぎられやすい。
通信機器のそばに必ずあってダントツに水分の多いものと言えば”人間”だ。
人間やコップに入った飲み物ですらWiMAXにとっては大敵だ。
私も2.5GHz帯の無線LANでつながりが悪い時はよくコップの位置を動かしたりしているので
WiMAXでも同じことになるだろうと思う。
電子レンジは水の固有振動と同じ電波を発信する。所詮家庭用のものでも500W~800W位の
ものが売れ筋だ。ちなみに携帯の基地局でも30W程度しか能力は無い。幾らシールドされて
いるからと言っても800Wのフルパワーで2.45GHzの電波を出している機械からノイズが全く出ない
とはいい切れない。電子レンジの1~2m横ぐらいでWiMAXをテストするとどうなるのだろうか?
どの方式を選ぼうが今のところ勝者は誰か分からない。
しかしDC-HSPA+に私は言うほど魅力を感じないし実効速度が出るとも思えない。
苦しいトレードオフをどう解決するのかに興味が有るのみだ。
だからといってLTEの将来が薔薇色だとも思わないが、将来性とそれだけではなく実効速度的にも
脈は感じられる。私は規格速度が42MbpsのDC-HSPA+(帯域幅10MHz)は規格速度が37.5Mbps
(帯域幅5MHz)のLTEに実効転送速度で全然及ばないのではないかと考えている。
全ての条件が揃ったゴールデンスポットのような場所で点的には規格速度は効く場合も
有るかもしれない。しかし色んな条件を複雑に絡み合う各地点で平均を取ればLTEの方に
分が有るという考えに収まってしまう。
私はこう考えてみた。
- 関連記事
-
- 2009/08/18(火) 19:34:09|
- 携帯
-
| トラックバック:0
-
| コメント:2